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“書の魅力を世界中の人に届けたい” 渡邉富岳インタビュー


 今回の作家インタビューは渡邉富岳さんです。書道学博士でもあり、日展作家でもある渡邉さんに書に関する様々な興味深いお話を聞くことができました。

“書の魅力を世界中の人に届けたい” 渡邉富岳インタビュー

菱田篤司

December 05, 2020


―いつから、どのようなきっかけで書を始めたのですか。
6歳の6月6日に書道家である母親の渡邉聖香の勧めで、地元の名家でもあった故 鈴木堯風先生の書道教室に通い始めたのがきっかけです。


ーそれから今までずっと続けられているわけですよね。渡邉さんにとって、書の魅力とはなんでしょうか。
書の魅力は一言で表すのは難しいですが、白の紙に黒という極めてシンプルな線の連続の中に、非常に複雑かつ多様な要素を凝縮できる点でしょうか。それは塗り直しのきかない瞬間的な表現であるので、まさに今の自分というものが露骨に表出します。その張り付いた線と真摯に向き合うことで、常に新しい課題が生まれる。そしてそれを改善し続けていくことができる。その繰り返しの作業それ自体もまた、書の魅力だと思っております。


ーなるほど。先ほど『多様な要素』というお話がありましたが、書をもっと知りたいという方に向けてその点についてもう少し詳しく教えていただいてもよろしいですか。
書は筆と墨と紙を使うのが一般的です。筆を使って色々な表現を試みます。例えば墨を多く使えば線が滲みますし、減らせばかすれる。筆圧を加えれば線が太くなるし、穂先で書けば細くなる。これらがいわば技術的側面の表現で、それらを更に複雑に組み合わせていくことで、様々な表現が可能になります。
またそれらは場面や用途に応じて使い分ける必要がある。そのために、技術や経験を蓄えて、多くの引き出しを持つ必要があるのだと思います。
もう少しスケールを広げてみると、人間性やマインド、あるいは自分自身が書いてきたもの(経験してきたもの)が集合体となって、いわゆる書風に反映されます。先ほど述べた意図的に作り出せる技術表現以外にも、自然に出てしまう類のものもあるのだと思います。
それは学んできた書の古典などの蓄積からくるだろうものもあれば、書に限らず様々な体験や習慣、クセ、メンタリティーなどからきているだろうものもあります。書と人間性ということはよく語られますが、それらが切り離せない部分が面白い。どうしてもその人らしい字というものが出てしまう。
そういう意味で人間性やマインドを磨いていくこと自体が、書の鍛錬になるという言い方もできるのだと思います。そうなってくると、字を書いている時以外も、常に書のことを考えていたりする。
それら技術的な側面と人間性や精神性のような側面が、私が先ほど述べた多様な要素なのだと考えます。

渡邉富岳 インタビュー


ーありがとうございます。ところで渡邉さんは書道学の博士号をお持ちですが、どのような研究をされていたのでしょうか。
私は大学と大学院で10年書道学を研究し、2019年に博士号を取得しました。
まず私の専門は漢字で、漢字は中国を起源とします。
ですので、私が学んできたのは中国書道の領域になります。
大学や師の元で書を学んでいく中で、私が現在も好んで展覧会などに発表している金文に興味を持つようになりました。 
最終的に博士論文の題目は『積古斎鐘鼎彝器款識』編纂協力者とその金文臨書の研究となりました。
難解な漢字が続きますが、簡単に題目を解釈しながら、論文の内容について説明させて頂きたいと思います。
まず研究の対象とした時代は、中国の清時代で西暦1800年頃になります。
その当時、大学者として現在でも知られている阮元(1764-1849)という人物がいました。
当時は考証学隆盛の流れの中、金(青銅器類)や石(石刻類)を書学の対象とする金石学が非常に注目を浴びる時代でした。
そのような気運の渦中に、阮元が編纂した書籍が、題目にある『積古斎鐘鼎彝器款識』になります。「積古斎」とは阮元の書斎名で「鐘鼎彝器」は金文の総称、「款識」は銘文を意味します。
いわばこの書籍は、阮元が所蔵するあるいは友人達が収蔵している青銅器の拓本を集めて収録した図録のようなものです。
阮元は総勢200名あまりの幕府(これは現在でいうサロンのようなものです)を有しており、その幕客(幕府のメンバー)達に書籍編纂などの大きな事業をたくさん委託していました。
その事業の一つに『積古斎鐘鼎彝器款識』の編纂があり、私はその書籍編纂に関わった人物の研究を行いました。
一番の研究の動機は、その書籍の模写を担当したと言われている篆刻家として有名な趙之琛(1781-1860)という人物がおり、当時では珍しく金文の作品を残しており、非常にその人の書に興味を持っていたことです。
卒業論文と修士論文では、趙之琛の書法(作品の分析)にフォーカスした研究をしてきましたが、博士論文ではその人の周りの人物も含め、されに幅を広めることで、先ほどの「様々な要素」の要因を知るべく、その書法がいかに生まれたのか、あるいはさらには当時の書法観、その核心に迫ろうと思ったわけです。
方法としては題目にあるように一つ目は、年譜などの漢籍を読み込み、書籍の編纂経緯を追うこと、二つ目は書籍編纂に関わった人物の書法の分析です。
以上が私の研究の内容です。


ーなるほど。なかなか難しそうな研究ですね(笑)
先程、趙之琛(チョウシチン)という名前が出てきましたが、渡邉さんの臨書作品が当オンラインギャラリーにも出展されていますね。
他にも特に好きな書家というのはいますか。また、その理由も教えて下さい
私の師匠の高木聖雨先生はもちろんですが、師の師である青山杉雨先生も、また好きな書家です。
理由は直接お会いしたことはありませんが、その熱が時代を経ても伝わってくることです。
「一作一面貌」とも言われ、作品ごとに趣がちがいます。
作品は、それぞれ違った感動を覚え、書家としてのダイナミズムを感じます。

 渡邉富岳 書道作品
『臨趙之琛』


ー高木聖雨氏の作品は現物を展覧会で数作品拝見したことがありますが、造形美、迫力には唸るものがありました。ところで日本の書道はざっくりと分けると「伝統系」と「現代書」と分けられることが多いと思います。そのことについて渡邉さんはどう思われますか。
私はその二つに特に差があるとは思っておりません。
いずれも「現代の書」であることは間違いありませんし、表現としてはとても新しいものであると思います。
伝統があるとするならばその表現がより先人達の古典のエッセンスに立脚しているか否かという点だと思います。
ですので全てが伝統の書であり現代の書であるべきなのだと思っております。


ーなるほど。若い世代ならではの考え方かもしれませんね。ただ、私から見ると渡邉さんの作品の魅力というのは、伝統系の書の王道感、重厚さにあると感じています。
渡邉さん自身が作品制作時に最も重視しているポイント、また自身の作品の特徴と思われるところを教えていただけますか。
作品制作については、毎回コンセプトを変えているつもりです。黒棘さんに出品させて頂いているものの多くは、詩文や書風など、私の博士論文のキーパーソン達を素材にして制作したものです。詳しくは作品の解説をご覧いただければと思います。
制作時に意識するポイントは毎回異なりますが、最終的に多くの視点から鑑賞できるような作品になるよう心がけています。基本的には初めに漠然とした完成形のイメージがあり、詩文や語句の内容、書風、取り入れる古典、用具用材、表装など考えていくなかで、少しずつそのイメージに近づかせていきます。またそれらの要素が少しずつでも、互いにリンクするように考え、最終的に全体として繋がりが生まれ、1つの作品としてまとまるように意識しております。
自身の作品の特徴は、まだまだ試行錯誤しながら、模索中ではありますが、先程の制作する際の意図が汲めたものになっていればと思っております。一作一面貌とはいきませんが、毎回作品によって様々なイメージやコンセプトをもちながらも、その時持ち得る最大限のエネルギーをもって制作し、その結果独自の表情や味わい、表現ができれば良いと思っております。

渡邉富岳 書道作品
『磨磚非作鏡 著手尽成春』


渡邉富岳 書道作品
『達受詩』


ー今後の展望や、やってみたいと思っていることなどがありましたら教えてください。
書の魅力を世界中の多くの方に届けることです。私自身、人生を大きく変えてしまうような書作品に出会った経験があるので、そのような感動を多くの方に伝えることができればと思います。そのためにとにかく書のスキルを磨き、より多くの方々に作品を観てもらう機会を増やしていければと思っております。

 

【後記】
伝統系の書というと非常に敷居が高く、気難しい作家が多いのではないかという先入観を勝手に抱いていたが、渡邉さんは律儀で真面目ではあるが、現代的思考と柔軟性があり、とても面白い人間である。渡邉さん自身は「伝統系というカテゴリーに当てはめられることで硬いイメージを持って欲しくないし、特に枠に縛られることなく自由に書道をしている感覚しかない」とカテゴライズされることを好んでいないが、私は硬さが伝統系の魅力であると思いつつも、渡邉さんのような作家が伝統系の書に新たな魅力をもたらし、進化させていくのでないかという期待もしている。
このインタビューと渡邉さんの作品から様々な書の魅力を改めて知ってもらえたら嬉しいと思う。 

渡邉富岳作品一覧

富嶽書道サロン(渡邉さんの書道教室)

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